モクレンの花
モクレンの花は無骨な木の姿に似合わない。今年もいつもの春のように咲き始めた。ピンク色の花の外側にうっすらとそのピンクが透けて見える白は美しい薄桃色と透明な奥深い色を醸し出している。少しだけ花びらは風に耐えているがやがて地面に落ちる時が来る。コブのような花をつける木枝の先端の姿はゲンコツをいくつも寄せ集めたようだ。モクレンの向こうに民家の二階が見える。その家の一つの壁には洗濯物の干し場と三つの窓がある。薄い黄土色の壁色が背景の空の色に居座っていて自分の言葉を探している。隣の壁には窓は一つだけだ。誰が住むかは知らない。足元の小さな庭にはエビネの葉が春を待っている。モクレンの花には葉がひとつもない。
遠くで聞こえる車の音の色
母が言う昨日のことは色不思議
九四歳だと言う人は誰
二〇二〇年三月二十日
子平
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