イタリア感傷旅行

Updated on 2020年2月23日 in 交流
0 on 2020年2月23日

 

イタリア感傷旅行

 

小さき子供ともなう若き婦人あり。好奇の目を持つ子供はおよそ二歳なり。言葉未だつながらず。彼の目は愛らしく喜ぶ。手を差し伸べれば彼の目は何者かと我をとがめる。日々の暮らし息詰まり、ひとり心を洗わんと風に誘われてイタリアに向かう。二月の空は暗く、イタリアも国も違わずとは知りながら国を離れる。ヨーロッパに最初に降り立つのはフィンランドのヘルシンキ空港。雪のなきは暖かき年という。向かうはイタリアの首都ローマ。ローマから古代の街ナポリ。

 

ヘルシンキは 北の国の 恋の街

ヘルシンキ 雨に輝く 飛行場

 

ガイドに会い心静かに、安心。

 

イタリアに 少年時代 あこがれて

イタリアに 何を求めて 冬の朝

夕闇に 降り立つ人の 冬の街

何故イタリアに住むのかと問うてみる

ローマには 夢幻が歩くとか

イタリアに ローマの雨の懐かしき

やわらかき ローマの光 冬の夜

彼の瞳(め)に 古代ローマの 街の雨

ホテルにて 少年は待つ 朝の雨

ローマにも 教会の鐘 鳴りわたり

 

ボルセジアトーレと叫ぶものがある。最初の言葉。ローマは危険な街とかいうものあり。

 

パンテオンのラファエロの夢の中に

月の中 ローマの朝の 赤い街

 

ローマからナポリに向かう。

 

ナポリには 悲しい雨の 駅の跡

はじめての 雨のナポリの 旅の宿

 

ポンペイで見た紀元前の人の暮らしに。

 

一九二四年 溶岩の跡 鮮やかに

ポンペイで 古代の夢に 浸りきる

 

マンドリン ジプシーの街 人の声

風の海に赤い街の人の息

 

ポンペイの 石の光の 神の海

立ち止まる 海の光の 地中海

ポンペイに 石の光に 手を合わせ

 

人々がポンペイの街の墓通りを歩くという。

 

夾竹桃の花海の風吹く日

ポンペイの 神に捧げる 煙かな

 

古代にも 魚の頭 南向き

 

ナポリに戻る。朝露に濡れているナポリの地下鉄にて。

 

ナポリまで雨の地下鉄に乗る朝

エスプレッソ ナポリの朝の 海の香に

 

ナポリの空と雲と青い風とに

何に揺れるオリーブの実 海の風

 

オリーブの実に紀元前という時

 

光にも古代がささやき太陽にナポリ人の顔に古代の人の作った煉瓦色と光る海が映し出される。

 

ナポリにも 古代ささやく 地中海

 

ナポリは南イタリアの中心の都市にして古代の街なり。三層に重なる土の歴史が古代の幽霊を引き出す。男も女も殺され無法の街に住む人となる。やがて三千年の時間は王と奴隷と戦争を許す。ソレントというところに来てさらに太陽に近く。狐の嫁入りの雨。アマルフィの雨は地中海の光の中に解けていく。ここがソレントという。光の海の向こうにアマルフィの石畳とイタリアの神がいると。

 

金色の 雨の半島 アマルフィに

イタリアの言葉にも瞳見る朝

 

白壁に 光り輝く 海の声

 

サルバトーレは彼の名、女の名をロベルタという。アマルフィでふられた雨は海に流れる。光の風車に雲が流れる。南イタリアに向かうバスの車中の隣の席に座る人は見知らぬ人。ナポリは彼らを隠す街。遠く向こうに見える光の彼方に緑あり。車中に流れ差し込む光は暖かく大地を温める。オリーブに囲まれた人住む家には誰が住むのか。緑の丘の大地はなだらかにどこまでも続く。

 

アマルフィからアルベロベッロまでひたすらハイウエイを走る。

 

夕闇にイタリアの海の音聞く

光にも何を求める神の手に

 

暗闇に 皆眠り入り 人の声

 

ビトントからE843をアルベロベッロというところへ向かう。車窓には流れる灯りあり。父は少女に水を与える。乾いた喉に冷たき水が流れ落ちやがて少女は走り去る。父はイタリア人の男。母は異教徒。

 

松の影 シルエットにも 思いよせ

 

マテーラと言うところに向かう。

 

マテーラの 洞窟に住む 人の顔

マテーラに すれ違う人もなしかな

 

ナポリよりローマに戻る。特急電車にて若き女に会う。

 

はにかみし 若き女は 異国の人

 

女はラティーナに生まれる。ドクターの女はロンドンに住める男と会い。共に次の年にはアジアの極東の街に行くと言う。

 

イタリアにもかけ落ちというものあり

 

その女アルベロベッロに生まれる。その男ローマ時代の異民族。車窓には古代イタリアの夕焼け。ナポリで出会い恋に落ちることあり。ベスビオスの山並みが見える夜何度目かの逢引。

 

ああ地中海の海の色に叫ぶ

 

ローマに戻る。

 

悲しみは ローマの空の 石の跡

冬の日に 剣闘士にも ローマの香

 

ローマに戻り、若き人に出会う。ローマ中央駅につき人々の瞳違い確かむ。

 

雲ひとつ 緩やかにして 空の色

 

ローマよりヘルシンキに向かう。フィンランド老婦人との会話あり。我が娘は日本の自動車会社に勤める。フィンランドを知るかと問われ、短い夏に森に入りベリーを取る国と答える。美しき国とさらに答えると短き夏の楽しみと。その白き肌と四角の姿は北の国の夫人に違いなき顔。赤き毛糸のマフラーにグレーのセーターとジーンズを着る。うっすらと光輝く生毛見える。フィンランドにとどまれる時ありかと問われ未だなきと答える。桜の季節の花の美しさ花の命の短きことを認める。フィンランドというところ、北欧の国にはどんな人住めるか。

 

ローマから帰路飛行機でフィンランドへ。

 

フィンランド 不思議の国に 子供の目

おもしろき 動物の顔 夢の中

 

 

二〇二〇年二月一〇日 名古屋セントレアにて終着

 

子平

 

 

縦書き

http://haibun.gardening.co.jp/wp-content/uploads/2020/02/イタリア-感傷旅行.pdf

 

 

 
  • Liked by
Reply