ビジネスマンの冬の一日
古の人の言葉に奮い立ち何をか残さんと思う。春は生き物の芽吹きに驚き、夏は光り輝く太陽を受け止め、秋は草木のゆれるのを見て哀しみにひたり、冬は暖かき暖炉に向かう。
今年こそことごとく人と人との顔を見合わせて健やかな日々を過ごさん。車窓には雪降り、皆景色は消えて人の暮らしをとざす。我が身を感傷の中にひたし、次の出会いに想いを馳せる。
初春に 雨にも濡れる 光かな
夢やぶれ 椿の花の 冬の恋
友を見送るに。
睦月まで モンゴルに行くという君
中国と いまだ春待つ 東京と
街に出かけ会う人々に。東京に着き、乗り換えて乗り換え、階段を駆け上がること幾度か。
節分と 鬼と人との 話し合い
乗り継いで 椿の花と 六合の村
かの国の 街行く人に 晴近く
東京というところには 鬼も居り
仕事の終わりに次の目的地へ。山手線から、京浜東北赤羽乗り換え、さらに高崎線に、日は長くなり今年は暖冬に。
鈍行で 高崎までと 冬の夜
あの日にも 立ち止まるなと 西の空
雨が降る 高崎問屋町こそ 哀しけれ
コックリと 居眠りするな 窓の梅
飯やで。
ため息は かぶらの匂いに似たりと
昨日のこと。
玄関に 座り込んでは 冬の朝
李白とともに酒を飲み、独りよがりの空想にふける。名古屋より旅立ち仕事のために北に向かう。君のことを思い出す。
マフラアに 包まれるのは 首の顔
スマホにも 唾飛ばす人 人の波
三月十一日は、東北の大地震。あの映像を思い出す。
見上げれば 蝋梅の香に 手を合わせ
まだまだと まだまだまだと 韮の花
声上げて 南天の実も 赤々と
闇夜にも 半輪の月 夢枕
二〇二〇年一月十六日 豊明にて
子平
<縦書き>
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